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出会いアプリ物語

スマホが鳴り、隆雄は舌打ちした。
窓の外から小鳥の囀りが聞こえる。
寝ぼけ眼でスマホを探り、取り上げた。スクリーンを見ると、知らない番号だった。
仕事をしていて、布団に潜り込んだのが明け方の四時過ぎだった。
(誰だ、こんなに朝早く・・・)
スマホをサイドテーブルに置き、再び眠りに就こうとした。
すると、十分も経たないうちに、またスマホが鳴り始めた。
そのまま無視しようと思ったが・・。

「誰だ?」
無造作にスマホを取り上げ、存在に喋っていた。
「誰って。寝てたの?失礼しちゃうなぁ〜、せっかく電話してあげたのにぃ〜」
舌足らずの甘ったる声だった。
「だから、誰なんだぁ?」
少しばかり語気が荒くなっていた。
「えっ、やだぁ〜。覚えてないのぉ〜?ホントにぃ〜?」
まだ働いていない頭で、隆雄は必死に記憶の糸を探ろうとした。しかし、記憶の欠片しか思い出せない。
「えっ〜と、誰でしたっけ、アナタは?」
今度は少し語気を緩めて聞いてみた。
「杏子だよ、杏子。思い出したぁ?」
その名前を聞いた瞬間、記憶の断片が蘇り、目が覚めた。


杏子とは、三週間前にダウンロードした出会いアプリを通じて知り合った。出会いアプリを使うのは、これが初めてだった。
最初のメッセージから元気溢れる内容で、中年オヤジを引っ張ってくれた。何度かメッセージをやり取りしているうちに、どちらからともなく会おうということになり、街中の小さな喫茶店で落ち合った。
小雨そぼ降る中、嫌がるそぶりもせずやって来てくれた彼女の健気さに、隆雄は年甲斐もなく心を動かされてしまった。
「久し振りに楽しかったよ。ありがとう」
素直な気持ちを伝えた。
「私も、とっても楽しかったよ」
そう言うが早いか、いきなり顔を近づけ頬にキスをしてきた。
「また、会ってくれる?」
上目遣いをしながら、猫撫で声で訊いてくる。
「いつでも・・」
年相応につとめて冷静に応えた。
「じゃ、近いうちに必ず連絡するからね。バイバ〜イ」
濃紺のワンピースを着た杏子は、見る見るうちに雑踏の中へ華奢な姿を消してしまった。

忘れていたわけではなかった。
しかし、もう一度、会えるとも思っていなかった。
ただ、杏子の素直さに改めて感心しながら、隆雄はバスルームへ向かった。